遺言書作成支援業務を行う中で経験した「市へ寄付(遺贈)」と「清算型遺贈」について、簡単に記してみます。
遺言者は全財産(預貯金・不動産)を地元の市に対し寄付(遺贈)する旨の遺言書を作成したいという意向だったので、
市役所に問い合せたところ、市役所の担当者の回答は、「現金の寄付(遺贈)はお受けしていますが、不動産の寄付(遺贈)はお受けしていません。」というものでした。
そこで、清算型遺贈の遺言書を作成することを検討しました。例えば、「遺言者の有する財産の全部を換金し、その換価金から遺言者の一切の債務を弁済し、かつ、遺言の執行に関する費用を控除した残金を、〇〇県〇〇市に遺贈する。」という遺言です。
遺言者に対し遺言執行段階での手続きを説明したとき、次の2点が問題になりました。
①不動産を換価するとき、その不動産の名義を、形式上一旦、相続人名義にしなければならない。
②相続人が形式上譲譲渡所得税の納税義務者になる。
遺言者は、その推定相続人である甥姪とは、つきあいがありません。それで、相続手続きにおいて、できるだけ甥姪に迷惑を掛けたくない、手を煩わせたくないという希望をもっています。
専門家を遺言執行者に指名するので、遺言執行段階で、相続人である甥姪の手を煩わせることなく、手続きを進めることが可能でしょう。しかし、遺言者は、相続開始後、甥姪が遺言執行者から清算型遺贈の手続きについて説明を受けたとき、不快の念をいだくことを恐れました。
結局、遺言者は、地元の市への寄付(遺贈)は断念して、ある公益法人と協議し、その公益法人に対し包括遺贈する旨の遺言書を作成しました。