知人に薦められて、次の本を読んでみました。
田中英道『美しい「形」の日本』( ビジネス社、2013年)
著者は、美学美術史の学者です。「はしがき」で、本書の目的を、次のように述べています。
日本ほど昔の「形」をそのままに保存している国はありません。それは、建築の「形」や仏像の形だけでなく、精神の「形」もそうです。天皇家の統治形態から、民主政治のあり方、文化の伝統の継続まで、役割分担の「形」をとっている伝統が続いています。
この本は、そうした日本の「形」に着目した文化史です。すると、文字で記されていないもうひとつの広大な日本の歴史が見えて来ます。 |
著者は、これまでの大部分の歴史は史料(文字資料)にもとづいて語られきたから、歴史学のうえでは文字に残されていない事象はないものとして扱われてしまうという。これに対して、「形」に着目した文化史を提案。その方法論について、以下のように、主張します。
西洋人は、「初めに言葉(論理)ありき」という思想に立って「美」を徹底的に分析・説明しようとする。
他方、日本には美術作品や建造物を言葉で表現したり分析したりする伝統がない。日本人は古来、「形」の美しさは言葉ではとうてい表現しようがない、言い換えれば「形」と「言葉」は別物なのだ、と考えてきた。
日本の文化を知ろうとするときは、書かれた資料(史料)だけに頼るのではなく、むしろ「形」に着目することが重要になってくる。文字資料だけでなく美術作品や遺跡といった「形」、あるいは制度、慣習、しきたり・・・・・といった形態言語によって読み解かないかぎり日本の文化や歴史はわからない。
西洋人や中国人は文字の有無を文化・文明の尺度としがちだ。しかし、たとえ文字はなくても、話し言葉(口承言語)さえあれば文化は十分に伝達できるし、そうしたなかで新しい発明や工夫を重ねていくことも可能なのである。
日本文化の真の姿を読み解くには文字だけに頼るのではなく、美術作品や建築、あるいは制度や伝承といった「形」に着目することがきわめて重要になってくる。無文字時代の日本であれ、文字を使うようになってからの日本であれ、文字資料にはあらわれない、隠された文化の特性を「形」で読みとっていかなければ、日本文化の特質は見えてこない。
「形」を読み解くのに役立つのが「フォルモロジー(形象学)」である。このフォルモロジーを駆使して日本の「形」を読みとっていくことが日本文化の再発見、さらには再評価につながる。 |
本書のなかで、著者は、縄文式土器、土偶、仁徳天皇陵、埴輪、法隆寺、日本の仏像、絵巻物、浮世絵、伊勢神宮などを採り上げて、フォルモロジーを適用して見せます。